「山の霊力」・お勧めの一冊

クリスマスも終わり、いよいよ年末へまっしぐら、年を重ねるごとに月日の経過がどんどん早く感じていきますが、皆さんはどのように年末を過ごされてますか? 私は、今年の用事は今年のうちに済まそうと思いつつも、掃除やなんやかんや行き届かないまま、年を越してしまうというのが通年で、今年もそんな感じになりそうです(^^;
祖母が存命中に、「人生はあっと言うまや」と話していたのを思い出し、おばあちゃんの言う通り、ほんと早いよと空に語り掛けつつ、慌ただしく過ごす年の瀬であります。

お正月休みの間に読書される方も多いと思いますので、今回は最近読んだ本をご紹介します。本のタイトルを見て何気なく手に取ってみましたが、「山を拝む」という古来からの日本人の心の在り方について知ることができる本でした。

著者は、京都で生まれ、14歳で出家し京都の大徳寺で修業、その後渡米しハーバード大学神学部博士課程終了後ペンシルバニア大学でも博士号取得という経歴の町田宗鳳氏。霊山に登り、海にも潜っておられるとか。珍しい経歴を持たれている宗教学者さんです。

私は病気を患った後に登山を始め、標準治療と言われるものを止めて病院から遠ざかり、その代わりというのもなんですが、山通いをするようになりました。今のところ再発はしていません。この本のタイトルから、山から何かの力をもらっているのかもとの思いもあり読み始めました。自然のパワーというのもあると思いますが、病気というのは文字通り氣を病むのであって、氣の巡りが悪いと心身ともに不調になって病気を発症します。

自然と戯れることはを晴らしてくれる作用が大きく、そのため太陽を浴びて外遊びを楽しんでいる人は元気なのかもしれませんね。アウトドア以外でも、自分の好きなことに没頭して、例えばカラオケなどで大声で歌ったりしながら、煮詰まった気分を定期的に晴らすことが、健康維持に必要なようです。

鳥を求めて歩いているうちに山に登り、不思議な魅力に取りつかれるようにせっせと山に通うようになっていますが、山に魅かれるのは何故か。それは縄文時代から、山だけではなく自然に対する畏怖の気持ちを持って暮していた遥か昔の祖先から受け継がれたものかもしれません。血が騒ぐ、というと言葉が異なる感があるけれど、そういうことなのかもしれないなと、この本を読んで腑に落ちる気がしました。

日本人は、多種多様な八百万(やおろず)の神々を崇めていましたが、それらの神々が最初に出会ったのが山という神話空間だったそうです。「山岳信仰がこれだけ日本の精神史に大きな位置を占めてきたのは、山という場所がこの列島の歴史に流れる山民文化、海民文化、そして農民文化という三つの大きな潮流の合流点になってきたからである」と。島国でありながら、国土の75%が山地という日本、文化の合流点が山であったというのは、しっくりする考えです。

オロチの棲む山、神の坐す山、魂が蘇る山、などなど解説があり、興味深く読み進められます。日本百名山や、他の山に関する本とまた違った視点で書かれた山の歴史などを知ることができ、読んでよかったと思える一冊です。本に書かれていることを確認するべく、再び登りたくなる山もありました。

興味深かったのは「縄文人も踊りあかした白山」の章です。去年の夏の終わりに白山に登った際、綺麗なご来光を見ることが出来ました。南竜ヶ馬場キャンプ場でテント泊も楽しいけれど、山頂の小屋で宿泊し、夕暮れ、満点の星空、そしてご来光を見るのは格別です。

ご来光を待っている間に、宮司さんによる白山の歴史などの説明があり、朝日が昇りだすと同時に、宮司さんの呼びかけで山頂に居合わせた人々と一緒に万歳三唱するのが習わしのようで、皆で日の出を喜ぶひとときが、なんだか幸せだなぁと感じられる経験でした。

白山を717年に開山したのは泰澄ですが、泰澄は船頭の息子だったそうで、その弟子たちも能登の船頭出身だったとのこと。海民文化と山民文化がまさに合流したのですね。白山近くの手取川中流域にある舟岡山には縄文中期の遺跡があり、「まつりのにわ」と呼ばれる場所があるそうです。白山比咩神社の起源ともされていて、縄文人が「まつりのにわ」で白山を仰ぎみながら、踊っていたかもしれないと思われる場所、いつか訪れてみたいと思います。

縄文人、ネイティブアメリカン、ポリネシアン、ケルト人は、自然を崇拝し太陽や大地に宿る神々の存在を見出し死生観も似ていると言われていますが、平和的に自然とともに暮らしていた文明は、一神教などの宗教を大義にかかげて侵略される歴史をたどっています。いまだに宗教戦争が終わらない世界を眺めると、権力と結びつき人々を支配し、異なる思想を否定し争いを続けている宗教の意義について、改めて考えさせられます。

戦争が終結しないまま令和5年が終わりを迎えようとしていますが、来年こそは平和な世界になることを祈るばかりです。今年最後のブログとなりましたが、来年もよろしくお願いします(^^)。

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